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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和59年(ネ)1号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

一  控訴人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文と同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠関係は次のとおり付加訂正するほか原判決事実摘示と同じであるからこれを引用する。

1  原判決三枚目表四行目冒頭から同六行目末尾までを「(四)金利等金五七〇万円 昭和五二年四月七日までの控訴人中川巖に対する金利、損害金又は手形金の各債権合計額」と訂正する。

2  同四枚目表一行目冒頭から同二行目の「譲渡し、」までを「松木は被控訴人に対し、昭和五二年五月一三日前記2の金一五〇〇万円の債権を、同年七月二八日前記1の金一〇〇〇万円の債権をそれぞれ譲渡し、」と訂正し、同四枚目裏三行目の「昭和五二年」の前に「右抵当権設定後に締結したのに、」を加え、同裏五行目の「締結した上」を「締結したこととして、」と訂正し、同裏九行目の「前記の」から同裏一〇行目の「本件賃貸借は」までを「仮に本件賃貸借契約が右各抵当権設定前に締結されたとしても、右賃貸借契約に対する許可が右抵当権設定後になされているから、本件賃貸借は」と訂正する。

3  同五枚目裏三行目冒頭から同五行目末尾までを「1請求原因1項の事実は認める。」と訂正し、同六枚目表五行目末尾に「本件賃貸借契約は本件抵当権設定前である昭和四七・八年頃締結されたものであり、以来控訴人久保田は引き続き本件農地を耕作しているものであるから、本件賃貸借は本件抵当権に対抗しうるものである。」を加え、同表六行目末尾に「民法三九五条但し書の準用によつて本件賃貸借を解除することはできない。けだし、同条但し書の解除の規定は、いわゆる短期賃貸借が同条本文によつて保護されるので、特別の場合に右短期賃貸借の解除を認めたものであり、本件農地の賃貸借は民法三九五条本文によつて保護されるものではないから、同法但し書の準用ということはあり得ないものである。」を加える。

4  同六枚目裏三行目末尾に「すなわち、松木が昭和五一年八月一〇日控訴人中川に貸付けた金一〇〇〇万円の事実上の借主は右貸金債務の連帯保証人である町田博であり、同人は右金員を自己の経営する加賀第一不動産の経営資金として借受けたものである。ところで加賀第一不動産は加賀市南郷町で住宅団地造成事業を行つていたが、昭和五二年はじめ頃、その事業に行詰まり、その造成事業を加賀土石に引き継いでもらうべく、同年一月一八日その所有にかかる加賀市南郷町二 六番五山林ほか八筆の土地を譲渡担保を原因として加賀土石に譲渡した。松木は加賀土石に対する右土地所有権移転の事実を知るや、町田及び按察の両名を呼びつけ、町田の財産減少をなじつた。そこで按察は町田の松木に対する借金を引受けることとし、その金額を確認したところ、松木は中川名義で借受けた前記金一〇〇〇万円を含め金一七〇〇万円である旨答えたので、按察は金一七〇〇万円の債務の支払のために、昭和五二年二月頃、松木に対し、昭和五二年三月満期の額面金八〇〇万円、同年四月満期の額面金五〇〇万円及び同年五月満期の額面金四〇〇万円の手形三通を振出交付した。右金八〇〇万円及び金五〇〇万円の手形は満期に決済され、また右金四〇〇万円の手形も按察と被控訴人との直接取引によつて決済された。

したがつて請求原因1項記載の金一〇〇〇万円の債務は弁済によつて全額消滅している。」を加える。

5  同六枚目裏六・七行目全部、同裏九行目の「なお、」から同裏一〇行目末尾まで、及び同七枚目表一行目全部を削除する。

6  被控訴人の主張

仮に、按察或いは加賀土石が松木に対し金一七〇〇万円を支払う旨約束していたとしても、右支払の代償として本件金一〇〇〇万円の抵当債権を松木から加賀土石に譲渡する旨約束されており、控訴人中川、加賀第一不動産及び町田博は右譲渡を承諾していたものであるところ、加賀土石は松木に対する前記支払金を完済することができなかつたので、加賀土石は昭和五二年七月二八日頃被控訴人に対し右金一〇〇〇万円の抵当債権を金八〇〇万円で譲渡し、これによつて松木に対する支払を完了した。その結果右抵当権は松木から加賀土石、ついで被控訴人へと移転し、右抵当権の移転登記は中間省略により松木から被控訴人に対し直接なされたものである。

仮に加賀土石が松木に金一七〇〇万円を支払う代償として、本件金一〇〇〇万円の抵当債権を松木から譲受ける約束がなかつたとしても、右抵当債権の松木から被控訴人への譲渡は加賀土石の松木に対する金一七〇〇万円の弁済以前に完了しており、かつ被控訴人から譲渡代金として支払われた金八〇〇万円のうち金六五〇万円は、加賀土石から松木に対する前記金一七〇〇万円の弁済の一部として松木に支払われているので、右金六五〇万円の限度において本件金一〇〇〇万円の抵当債権は被控訴人に有効に移転し、存続するものである。

7  被控訴人の右主張に対する控訴人の認否

被控訴人の右主張は否認する。

8  証拠(省略)

理由

一  当裁判所も被控訴人の本訴請求は理由があるので認容すべきものと判断するところ、その理由は次のとおり付加訂正するほか原判決の理由説示と同じであるからこれを引用する。

1  原判決七枚目裏五行目冒頭から同八枚目裏八行目末尾までを「一 請求原因1項記載の、松木が昭和五一年八月一〇日控訴人中川に対し金一〇〇〇万円を弁済期日同年一〇月一〇日の約定で貸渡し、次いで昭和五二年三月二四日右貸金につき利息年一割五分、損害金日歩四銭、弁済期日同年五月三一日と定めた事実は当事者間に争いがない。そこで右債務に対する弁済の抗弁について判断するに、成立に争いのない甲第一号証、第三号証の四・五、第五・七・八号証、乙第一ないし第九号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第三二号証の一の五、第三二号証の三の一ないし三、原審証人山下岩雄、原審(第一ないし三回)及び当審証人松木幸吉、原審及び当審証人町田博、同(ただし当審は第一・二回)按察正敏、原審における控訴人中川、原審及び当審における被控訴人各本人尋問の結果によると、控訴人中川が昭和五一年八月一〇日松木から借受けた前記金一〇〇〇万円は、右借受けにあたり同控訴人の連帯保証人となつた町田博が同人の経営する加賀第一不動産の事業経営資金として使用するために借受けたものであること、加賀第一不動産は加賀市南郷町で住宅団地造成事業を行つていたが昭和五二年初め頃その事業に行詰まり、その造成事業を加賀土石(代表取締役按察正敏)に引き継いでもらうために、同年一月一八日加賀土石に対しその所有にかかる加賀市南郷町二 六番五山林ほか八筆の土地を譲渡担保に供して右各土地の所有権を移転しその旨の所有権移転登記を経由したこと、その頃松木は右所有権移転の事実を知り、右町田及び按察の両名を呼びつけて右所有権移転により町田の財産が減少したことをなじつたため、按察はやむなく前記金一〇〇〇万円の債務及び町田の松木に対するそのほかの債務金七〇〇万円合計金一七〇〇万円の債務を重畳的に引受けたこと、そして按察は右債務の支払のために手形三通額面合計金一七〇〇万円を松木に振出交付し、右手形のうち二通額面合計金一二〇〇万円は満期に支払われたが、他の一通は不渡りとなつたこと、松木は右金一二〇〇万円のうち七〇〇万円を前記金七〇〇万円の債権の弁済に充当し、残金五〇〇万円を前記金一〇〇〇万円の債権の弁済に充当したこと。しかし残金の支払がなかつたので松木は残債権を後記のとおり被控訴人に譲渡し、被控訴人は松木に対し譲渡代金として金六五〇万円を支払つたことが認められ、松木証人、按察証人及び被控訴人の供述中、右認定に反する部分は採用できない。

そうすると、前記金一〇〇〇万円の債権については按察の弁済によつては完済されず、そのうち元本金五〇〇万円の限度で弁済によつて消滅したに過ぎず、残元本金五〇〇万円の債権として存在していたものというべきである。控訴人の抗弁は右限度でしか理由なく、ほかに同事実を認めさせる的確な証拠はない。」と訂正する。

2  同九枚目表七行目から八行目にかけての「後記債権譲渡の時点で」を「昭和五二年四月七日の時点で」と訂正し、同一〇枚目表三行目冒頭から同九行目末尾までを「4 被控訴人は、松木が昭和五二年四月七日の時点で、控訴人中川に対し金利、損害金及び手形金の債権合計金五七〇万円を有していた旨主張するが、前掲松木証人の証言もこれを認めるに十分でなく、ほかに右主張を認めるに足りる証拠はない。」と訂正する。

3  同一二枚目表四行目の「(登記簿謄本)」の次に「弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第三二号証の一の三・五」を加え、同表五行目から六行目にかけての「昭和五二年七月二八日原告に対し本件の各被担保債権を譲渡し、」を「被控訴人に対し昭和五二年五月一三日前記金一五〇〇万円の債権を、同年七月二八日前記金一〇〇〇万円の債権を譲渡する旨の契約を締結し、同日代金を完済し、」と訂正し、同表八行目の「金一〇〇〇万円の全額と金七八〇万円の限度で」を「右金一〇〇〇万円の債権については金五〇〇万円の、右金一五〇〇万円の債権については金七八〇万円の限度で」と訂正する。

4  同一二枚目裏四行目の「甲第二二・二三号証」を「甲第二三・二四号証」と訂正し、同裏六行目の「合計金六六八万五〇〇〇円」を「本件農地のうち番号10・11及び13の農地につき合計金一三四万四〇〇〇円、その余の農地につき合計金五三四万一〇〇〇円」と訂正する。

5  同一三枚目表七行目の「締結した上」を「締結したこととして、」と訂正し、同裏六行目冒頭から同裏八行目の「対抗し得ないものである。」までを「原審証人角谷久嗣、同中西修一の各証言、原審における控訴人中川、同久保田各本人尋問の結果によると、控訴人久保田は昭和四七・八年頃から農地法三条の許可を受けないで、控訴人中川から本件農地を賃借し耕作していたことが認められる。ところで、農地の賃貸借契約は農地法三条の許可によりはじめて効力が発生するものであるから、本件賃貸借は前記農地法三条の許可があつた昭和五二年六月二三日に有効に成立したものというべきである。そうすると、本件賃貸借は本件各抵当権設定登記後に成立したものであり、かつ賃貸期間を一〇年とするものであるから、本件抵当権者に対抗し得ないものである。」と訂正する。

6  同一四枚目表一〇行目の「本件農地」から同裏一行目の「おらない上、」までを「本件農地のうち番号10・11及び13の農地の評価額は合計金一三四万四〇〇〇円であるところ、その被担保債権額は金五〇〇万円であり、また本件農地のうち右三筆を除くその余の農地の評価額は合計金五三四万一〇〇〇円であるところ、その被担保債権額は金七八〇万円であるから、いずれも被担保債権額に達しておらず、前記野本証人の証言によれば本件農地につき控訴人久保田の賃借権が存在しない場合本件農地の評価額は前記評価額の約二倍であることが認められる上、」と訂正する。

二  よつて、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法八九条、九五条を適用して、主文のとおり判決する。

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